今回は石多氏に、ギネス世界記録にも認定された「東京都庁」のプロジェクションマッピングでの舞台裏や運用技術、そして欧州での経験に基づく「日本のクリエイティブ」への提言まで、お話を伺うことができました。
石多 未知行
| クリエイティブディレクター / 空間演出家 / 映像クリエイター 一般財団法人 プロジェクションマッピング協会 代表 カラーズクリエーション株式会社 代表取締役 映像を「光」として捉え、空間をダイナミックに演出するアーティストとして国内外で活動。 2011年にプロジェクションマッピング協会を設立。以来、世界最大級の国際大会の企画演出をはじめ、国家事業での企画制作、海外の国際祭典での講演や審査員などに招聘されるなど、この分野における国際的な第一人者として知られる。 アート視点を持つクリエイティブディレクター·プロデューサーとして、都庁プロジェクションマッピング「TOKYO Night & Light」のコンテンツ企画プロデュースや、大阪·関西万博催事場でのプロジェクションマッピング企画、そして海岸の波を光らせる「NIGHT WAVE」など、唯一無二のプロジェクトを多数手掛けている。 |
石多 未知行
Q1. プロジェクションマッピング協会でのプロジェクトで特に印象に残っているものは何ですか?
石多 未知行氏(以下、石多): やはり「東京都庁」のプロジェクションマッピング『TOKYO Night & Light』ですね。非常に大きなインパクトがありましたし、我々にとっても大きな挑戦でした。 最大のポイントは、あれだけの巨大な建築物を使って「常設」で運用している点です。
東京都/東京プロジェクションマッピング実行委員会主催の、東京都庁舎プロジェクションマッピング『TOKYO Night & Light』に、コンテンツ企画制作担当として参画。 2024年2月25日よりスタートし、ギネスワールドレコードにも認定された、世界最大の建物への常設型プロジェクションマッピング企画です。
石多:世界を見渡しても、あの規模感で、毎日欠かさずプロジェクションマッピングを上映している事例というのはほぼありません。誰でも入れる公共の場所で、あれだけのスケールで常設化されているものは日本にありませんでした。だからこそ、ギネス世界記録にも「最大の建築物へのプロジェクションマッピングの展示(常設)【Largest Architectual projection-mapped display(permanent)】」として認定されたのです。
Q2. 「イベント(単発)」と「常設」では、都市や空間に与える影響力はどう違うのでしょうか?
石多: 全く違います。単発のイベントであれば、その日、その瞬間にお客様が集まって終わりですが、「常設」にすることで、それは「観光インフラ」となります。
例えば、海外からの旅行者が日本に来る際、旅行代理店やツアー会社は「いつまでやっているか分からないイベント」をツアーに組み込むことはできません。しかし、常設であれば「東京の夜の観光ルート」として確実に商品化できます。
札幌の雪まつりのような季節限定のものも素晴らしいですが、都市のナイトタイムエコノミーを底上げするには、いつ来ても楽しめる「常設コンテンツ」が不可欠なのです。
Q3. 屋外での常設運用では、どのような課題がありましたか?
石多: イベントと常設では、機材に対する考え方が根本的に異なります。イベントであれば、現場にオペレーターやエンジニアが張り付いてケアできますが、常設の場合は「毎日そこに人がいなくても動く」システムでなければなりません。
そのため『TOKYO Night & Light』では、プロジェクターの運用・管理を行うパナソニック コネクト株式会社さんにより、非常に堅牢なシステムが構築されました。
プロジェクターは精密機器ですから、雨風はもちろん、夏の暑さや冬の寒さも大敵です。そこで、パナソニック コネクトさんでは特殊な「ハウジング(保護筐体)」を作成し、その中にプロジェクターを設置しています。内部には空調設備も組み込まれていて、温度管理を自動で行い、プロジェクターが正常に稼働できる環境を維持しています。
さらに、電源のオンオフから上映スケジュールまで、すべて無人で自動制御されています。万が一トラブルが起きても遠隔でモニタリングできるシステムを導入しており、現場に行かなくても状況把握や復旧対応ができるようにしています。
Q4. コンテンツについても常設ならではの工夫があるのでしょうか?
石多: そうですね。常設だからこそ、何度も繰り返し見たくなるような「番組編成」が重要になります。
私が担当をしていた2023・2024年度は30分ごとのサイクルでプログラムを変えるとともに、平日と土日祝日でも内容を変えています。また、季節に合わせて上映開始時間を調整するなど、鮮度を保つ工夫をしていました。
東京都庁舎へ訪れるたびに新しい感動に出会える、様々なクリエイターによるバラエティ豊かな映像プログラム。
石多: 担当していた時は、いわゆる「IPコンテンツ」と、「アート性の高い作品」をバランスよく混ぜてプログラムを作ってきました。
IPコンテンツは集客力が抜群で、海外の方にも人気です。
そこで、世界のトップクリエイターが作ったアート性の高い作品や、美しい映像詩のような作品も見てもらう。そうすることで、「プロジェクションマッピングってこんな表現もできるんだ」「アートって面白いな」という気づきを持ち帰ってもらいたいんです。
Q5. 世界と日本で、クリエイティブに対する考え方に違いは感じますか?
石多: 以前イギリスに住んでいた時に痛感したのは、「戦略のスパンの長さ」です。
欧州では、都市のブランディングや文化育成を10年単位で考えています。対して日本は、どうしても単年度予算での決済になりがちで、「今年花火を打ち上げて終わり」というケースが多い。
しかし、文化や人は1年や2年では育ちません。
石多: 例えばイギリスでは、国立の美術館や博物館の多くが「無料」で開放されています。誰でも、いつでも、本物のアートに触れられる環境があるんです。
一方、日本の美術館はほとんどが有料で、アートに触れる機会が限られてしまっています。
都庁のプロジェクションマッピングもそうですが、都市の中で、クオリティの高いアートや表現に触れられる場所を作ることは非常に重要です。
子供の頃から日常的にそういったものに触れていれば、自然と感性が磨かれ、将来的にクリエイティブな発想ができる人材が育ちます。
「一見役に立たなそうなアート」が、実は巡り巡って国力や産業の競争力に繋がっていく。そういった長期的な視点での投資が、日本の空間デザインにはもっと必要だと感じています。
Q6. プロジェクションマッピング協会の日本での役割について教えてください。
石多: 我々は、プロジェクションマッピングという表現手法の普及・啓発はもちろんですが、「クリエイターのコミュニティ作り」にも力を入れています。横のつながりを作ったり、世界と接続できるプラットフォームが必要です。
例えば、我々が主催する『1minute Projection Mapping Competition』は、2012年に始まった歴史あるプロジェクションマッピングの国際大会として注目され、世界中からエントリーが集まります。そこで日本のクリエイターが海外のトップランナーと交流し、刺激を受け、次のステップへと羽ばたいていく。
実際に、大会で優勝したクリエイターが、その後世界的なプロジェクトで活躍するケースも増えています。
第 13 回目を迎える日本発・世界最大級のプロジェクションマッピング国際大会 「1minute Projection Mapping Competition」が、2026 年 5 月 23 日(土)、24(日)、30 日(土)、31 日(日) の計 4 日間、東京・新宿の都庁第一本庁舎を舞台に開催。
1minute Projection Mapping Competition 公式サイト: https://1minute-pm.com
石多: 日本のクリエイターは非常に勉強熱心で、技術的に真面目な作品を作るのが上手です。一方で、欧州勢は「いかに人と違うことをやるか」に命をかけている。
そういった異なる価値観がぶつかり合うことで、新しい表現が生まれます。
協会としては、そういった繋がりと学びのある「場」を提供し続けることで、日本の映像表現のレベルを底上げし、世界に誇れるクリエイティブを発信し続けていきたいと考えています。
今回のインタビューで特に印象的だったのは、石多氏の視点が「映像表現」に留まらず、「都市のあり方」や「次世代の育成」にまで及んでいることでした。
365日稼働する堅牢なシステムによる「常設コンテンツ」は、都市に安定した観光資源をもたらします。そして、そこで流れる多様なコンテンツは、見る人の感性を刺激し、10年後の日本の文化を育てる土壌となります。プロジェクションマッピングは、ただの映像表現ではなく、未来の日本人を育てるためのインフラなのかもしれません。
第二部では、石多氏が企画演出として手がけた最新プロジェクトについて詳しくお話を聞きます。お楽しみに!

映像や空間演出を手掛けるプロデューサー兼ディレクター。
ProAV Picksでは各種展示会や製品情報のレポートを中心に紹介。