「つぐ minä perhonen」(世田谷美術館)プロジェクター12台が織りなす工場風景

「つぐ minä perhonen」(世田谷美術館)プロジェクター12台が織りなす工場風景

2025年11月22日より2026年2月1日まで開催された、東京・世田谷美術館にてファッション・テキスタイルブランドであるミナ ペルホネン(minä perhonen)の創設30周年を記念する展覧会「つぐ minä perhonen」。 デザイナー・皆川 明氏が創設した同ブランドの展覧会といえば、2019年から各地を巡回した「ミナ ペルホネン/皆川 明 つづく」展が記憶に新しいですが、今回の世田谷での展示もまた、静謐ながら圧倒的な熱量を帯びた空間となっています。


今回は、ProAV Picksの視点から、会場最奥部のハイライト「ensemble(アンサンブル)」セクションに注目。株式会社クロステック「つぐ minä perhonen」にて撮影・制作をした映像インスタレーションをご紹介します。

「せめて100年つづくブランド」という想い

「ミナ ペルホネン」はブランドの創設から30年にわたり、手仕事や職人との協業を大切にしながら、暮らしのなかに永く息づき、時を重ねて深みを増すデザインを積み重ねてきました。その‟運動”ともいえる、ものづくりのありかたを「つぐ」という言葉が内包する多様な意味を通じて紹介しています。 洋服やプロダクト、テキスタイルとその原画などにより、100年先へと歩みを進める仕事と思想に触れることができます。

テキスタイルで飾られたエントランスの様子

テキスタイルで飾られたエントランスの様子
Photo: Manami Takahashi

会場は、それぞれ「chorus」「score」「ensemble」「humming」「voice」「remix」と音楽にまつわる名称がつけられた6つのエリアで構成されています 会場に足を踏み入れると、これまでのアーカイブが空間を埋め尽くすように展示され、訪れる人々をミナ ペルホネンの世界観へ引き込みます。

テキスタイル約180種が並ぶ《chorus》展示風景
Photo: Manami Takahashi

21の柄のデザインの成立過程と展開を追う《score》展示風景
Photo: Manami Takahashi



デザインの現場を再現した《humming》でのミナ ペルホネンのアトリエ展示風景

 Photo: Manami Takahashi

リメイクした洋服12点を紹介する《remix》展示風景
Photo: Manami Takahashi



デザイナーと職人の対話を可視化する《ensemble》

デザイナーと職人の対話を可視化する《ensemble》

Photo: Manami Takahashi

そして「ensemble」がテーマとするのは、ミナ ペルホネンのデザインを具現化する職人との関係性です。

デザイナーが描いた図案は、そのままでは服になりません。工場の職人がそれを読み解き、機械と対話し、試行錯誤を重ねることで初めて、あの魅力的な風合いを持つファブリックが生まれます。

このセクションでは、完成品だけでなく、原画や指示書、そして工場での試作過程の映像が展示されています。ここで存在感を放っていたのが、株式会社クロステックが撮影・制作を手掛けた3つの大型映像です。

計12台のプロジェクターが実現した「実物大」の臨場感

その3つの大型映像の魅力は、その「スケール感」にあります。 プロジェクター複数台をブレンディングして再現した実物大の工場の様子は、工場での職人の息遣いまで感じることができます。

1. 刺繍工場 製作風景 [”forest parade” ”anemone”]

刺繍工場 製作風景 [”forest parade” ”anemone”]

Photo: Manami Takahashi

圧巻の横16m映像で再現される、ミナ ペルホネンの代名詞とも言える刺繍の工程です。 7台ものプロジェクターを駆使し、超ワイドな画面構成を実現しています。実際の刺繍工場にある巨大な刺繍機が、forest parade”のレースモチーフや”anemone”の花々が布の上で咲かせていく様子を、そのままのスケールで観察することができます。

2. プリント工場 製作風景 [”surplus”]

プリント工場 製作風景 [”surplus”]

Photo: Manami Takahashi

染料がスクリーンを通り抜け、布に色が乗るプリントの工程。 ここでは3台のプロジェクターを使用し、横長の生地に職人が1色ずつ、手作業で柄が積み重ねていく様子を目の前で見ているように体験できます。映像の奥には、実際に使われたプリント用のスクリーン版が展示されており、さらにリアリティを増していました。

3. 織物工場 製作風景 [”life puzzle”]

 

Photo: Manami Takahashi

天面のプロジェクター映像と、手前側面の実物の布の柄がリンクしている
Photo: Manami Takahashi



ここでは2台のプロジェクターを用いて、織機のメカニカルな動きを再現しています。ガシャン、ガシャンという重厚な機械音と、繊細な糸が暖かな模様に生まれ変わっていくコントラスト。 「life puzzle」で描かれている多種多様な動物が順番に織られていきます。

プロジェクター映像が繋ぐ「完成品」と「プロセス」の物語

「ensemble」における映像演出の最大の功績は、「完成品」と「製造工程」という、本来離れた場所にある二つの時間を、実寸大の映像によって接続したことにあります。クロステックによる、計12台のプロジェクターを用いた「実物大再現」は、単に情報を伝えるだけでなく、鑑賞者へ製造の空気感を伝えていました。

展覧会は巡回へ

「つぐ minä perhonen」展は、2026年長野、熊本、富山に。その後も栃木、静岡等に巡回します。ぜひ会場に足を運び、テキスタイルと映像が織りなす「アンサンブル」を肌で感じてください。 なお、巡回会場は追加で発表となる予定です。お楽しみにお待ちください。

この記事のWRITER

映像や空間演出を手掛けるプロデューサー兼ディレクター。
ProAV Picksでは各種展示会や製品情報のレポートを中心に紹介。

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