未来の学び舎を創造する!教育空間デザインの現在地と未来予測

未来の学び舎を創造する!教育空間デザインの現在地と未来予測

未来の教育空間は、机と黒板だけの場から、生徒が主体的に学び協働できる「創造の場」へ進化しています。日本ではGIGAスクール構想で1人1台端末が整備されましたが、空間活用やICT格差が課題です。一方、海外では自由に選べる学習空間や没入型施設、ハイブリッド教室が普及。日本でも大型インタラクティブディスプレイや高品質音響が注目され、AV技術を活用した柔軟で没入感ある空間が未来の学びを支えます。


未来の学び舎を創造する!教育空間デザインの現在地と未来予測

学習は、もはや机に向かって教科書を開くだけの行為ではありません。テクノロジーの進化と共に、学びの形も劇的に変化しています。
特に、教室という「空間」そのものが、生徒の創造性や協調性を育む重要な要素として再定義されつつあります。今回は、日本の教育現場の現状から、世界の最先端事例、そして未来の教育を支えるプロAV技術まで、教育空間デザインの今とこれからをレポートします。

日本の教育業界の現状と課題

日本の教育現場では、少子化による学校の統廃合、教員の働き方改革、そしてGIGAスクール構想に代表されるデジタル化の推進など、大きな転換期を迎えています。

GIGAスクール構想とは?

GIGAスクール構想は、2019年(令和元年)に開始された文部科学省が推進する教育改革のための国家プロジェクトです。この構想の目的は、「誰一人取り残すことのない、公正で個別最適化された学び」を実現するため、全国の小中学校の児童・生徒一人ひとりに1台の学習用端末と、高速大容量の通信ネットワークを整備することです。

「GIGA」は「Global and Innovation Gateway for All」の頭文字をとっており、未来を生きる子どもたちが、デジタル社会で活躍するために必要な資質・能力を育むことを目指しています。

学習用端末を用いた授業のイメージ

学習用端末を用いた授業のイメージ

GIGAスクール構想の現状

GIGAスクール構想は、当初数年かけて整備される予定でしたが、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、計画が大幅に前倒しされました。その結果、多くの自治体では2020年度中には「1人1台端末」という学習環境が実現しました。これは世界的にも稀なスピードです。

しかし、現状ではいくつかの課題も浮き彫りになっています。

  • 空間の活用不足
    端末は導入されたものの、従来の画一的な教室レイアウトでは、主体的な学びや協働学習を効果的に行うのが難しいという課題があります。
  • 活用格差
    自治体や学校、教員によってICTの活用度合いに差が出ています。端末が十分に授業で活用されていないケースも存在します。
  • ネットワーク環境の改善
    大勢の生徒が同時に端末を使用することで、通信速度が遅くなったり、ネットワークが不安定になったりする学校もあります。

海外の教育空間における空間演出の最前線

海外においても、課題を解決すべく革新的な教育空間が次々と生まれています。

・フレキシブルな教室と協働学習

スウェーデンのVittra Telefonplan Schoolでは、教室の概念を覆す革新的な空間デザインが導入されています。ここでは、特定の教室や決まった机は存在せず、洞窟のような囲われた空間、丘のような段差のある空間、開放的なワークスペースなど、生徒たちがその日の学習内容や気分に合わせて自由に場所を選べるようになっています。プロジェクターや大型ディスプレイが随所に配置されており、生徒たちはチームで画面を囲んで議論したり、発表を行ったりと、アクティブな学習を自然に行えるよう設計されています。

・没入型学習空間

バージニア州ブラックスバーグにあるバージニア工科大学では、没入型オーディオシステム、すべての壁にプロジェクションマッピングを可能にした没入型学習空間である「THE CUBE」を運営しています。身体データ分析からドローン研究、最先端のクリエイティブワークまで、幅広い研究が行われています。また研究の目的以外でも、音楽演奏からロボットアンサンブル、XRシミュレーション、美術展まで、あらゆるイベントを開催できる可能性を秘めています。

・ハイブリッド学習

オランダ・ロッテルダムにあるロッテルダム応用科学大学では、プロジェクター、ホワイトボード、コラボレーション技術のスマートな組み合わせにより、リモートでも自然な授業体験が可能なハイブリッド教室が整備されています。例えばホワイトボードの内容をビデオ会議にブロードキャストすることで、リモートからの参加者にも公平な体験を提供することができます。

日本で今後導入が期待される最新の空間演出

2025年4月に開催されたEDIX(教育総合展)東京2025おいて、日本で今後導入が期待される空間デザインのアイデアが多数紹介されました。今回はその一部を紹介します。

・高機能なインタラクティブディスプレイと連携システム

多くのブースで、タッチ操作が可能な大型ディスプレイが展示されていました。単なる画面としての利用に留まらず、教員が手元の端末からディスプレイを遠隔操作したり、生徒のタブレット画面を瞬時に共有したりできるシステムが注目を集めました。
代表的な製品としては、シャープの「BIG PAD Campus」シリーズが挙げられます。複数人での書き込みに対応し、タブレット端末との連携機能も充実しているため、協働学習や双方向授業を強力にサポートします。

高機能なインタラクティブディスプレイと連携システム

・均一で明瞭な音を遠くまで伝える音響システム

AV機器を用いた、より質の高い授業を実現するための設備も様々なものが紹介されていました。 例えばSONYのラインアレイスピーカーは、狙った場所に均一に明瞭な音を届けることができ、大きな講義室のどの席からでも均一に聞こえる音響空間の構築することができます。少ないスピーカーだけで音を満遍なく届けられることは、生徒の体験を向上させるだけでなく、メンテナンスのコストを下げる効果も期待ができます。

均一で明瞭な音を遠くまで伝える音響システム

未来の教室は、単に情報を受け取る場所ではなく、生徒たちが自ら考え、協働し、創造する「アクティブな学びの場」へと進化します。プロAV技術を活用した柔軟で没入感のある空間演出は、生徒の好奇心を刺激し、学習意欲を最大限に引き出す原動力となるでしょう。

このような空間演出によって、生徒一人ひとりが自分の興味やペースに合わせて学びを深められる環境が、日本中の教育機関にもたらされることを期待できます。先生方も、授業の準備や進行がよりスムーズになり、生徒とのコミュニケーションに集中できる、そんな理想的な学びの空間が実現するでしょう。

未来の教育は、空間デザインから始まります!

この記事のWRITER

映像や空間演出を手掛けるプロデューサー兼ディレクター。
ProAV Picksでは各種展示会や製品情報のレポートを中心に紹介。

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