近年、私たちの日常生活やビジネスのあらゆる場面で、映像、音響、照明、制御技術といったプロフェッショナルAV(ProAV)が不可欠な要素となっています。会議室のディスプレイからコンサートホールの音響システム、そして最新のデジタルサイネージまで、その適用範囲は広がる一方です。
今回は、世界のプロAV市場と日本の市場規模に焦点を当て、その拡大の全貌と、今後の展望についてご紹介します。
世界のプロAV市場:成長を牽引するデジタル変革
世界のプロAV市場は、デジタル変革の加速、ハイブリッドワークの普及、そして没入型体験への需要の高まりを背景に、力強い成長を続けています。

■最新の市場規模予測
最新の調査レポートであるAVIXAの「Industry Outlook and Trends Analysis (IOTA) 2024 Report」によると、世界のプロAV市場は2024年に約3,250億ドル(1ドル=146.11円換算で約47兆4,857億円)に達すると予測されています。
また、2024年から2029年にかけて年平均成長率(CAGR)7.3%で成長し、2029年には5,355億ドル(1ドル=146.11円換算で約78兆2,306億円)に達すると見込まれています。 この力強い成長は、企業、教育機関、政府機関、小売、ホスピタリティなど、多岐にわたる分野でのAV技術の導入拡大によって支えられていると考えられます。
市場を牽引する主要技術
- 統合システム:
会議室、トレーニングルーム、講堂などでのAV機器の統合システム化が進んでいます。 - デジタルサイネージ:
小売店、公共施設、交通機関などでの情報伝達や広告媒体としての利用が拡大しています。 - コラボレーションツール:
リモートワークやハイブリッドワークの普及により、ビデオ会議システムやインタラクティブディスプレイの需要が急増しています。 - 空間オーディオ、没入型ディスプレイ:
テーマパーク、博物館、イベント会場などで、より没入感のある体験を提供するための技術が進化しています。
出典元:AVIXA (Audiovisual and Integrated Experience Association) 「Industry Outlook and Trends Analysis (IOTA) 2024 Report」
AVIXAは、プロAV業界の世界的な業界団体であり、毎年包括的な市場調査レポートを発行しています。このレポートは、市場規模、地域別動向、技術トレンドなどを詳細に分析しており、プロAV業界の動向を把握する上で最も信頼性の高い情報源の一つです。
日本のプロAV市場:独自の進化と今後の展望
日本のプロAV市場も、グローバルなトレンドと連動しつつ、独自の進化を遂げています。特に、高品質な映像・音響技術へのこだわりや、きめ細やかなサービス提供が日本の市場の特徴です。

■市場規模と成長要因
- 企業におけるDX推進:
デジタル変革の一環として、オフィス空間の再構築や、リモートワーク環境の整備が進み、高機能な会議システムやコラボレーションツールへの投資が増加しています。 - 教育現場でのICT化:
GIGAスクール構想に代表されるように、教育現場でのICT機器導入が加速しており、インタラクティブホワイトボードやプロジェクター、音響機器などの需要が高まっています。 - イベント・エンターテイメント市場の回復:
コロナ禍からの回復に伴い、コンサート、展示会、スポーツイベントなどでの大規模なAVシステムの導入が再開されています。 - インバウンド需要への対応:
ホテル、観光施設、商業施設などでの多言語対応デジタルサイネージや、顧客体験を向上させるためのAVソリューションの導入が進んでいます。
AVIXAのレポートは、国・地域別の詳細な市場予測も提供しており、日本を含むアジア太平洋地域のプロAV市場の動向を把握することができます。
プロAVの「体験価値」に注目
このように、世界の、そして日本のプロAV市場は着実に拡大を続けています。この市場の成長は、単にAV機器の売上が伸びているというだけでなく、私たちが空間から得られる「体験価値」が向上していることを意味しています。
プロAV技術の進化は、企業においてはより生産的で創造的なコラボレーションを可能にし、教育現場では学習効果を最大化する環境を提供します。また、小売やホスピタリティ分野では、顧客にとって忘れられない没入感のある体験を生み出し、イベントやエンターテイメントにおいては、観客を魅了する壮大な演出を実現します。
未来の空間は、プロAV技術によって、単なる機能的な場から、五感を刺激し、感情を揺さぶる「体験」を生み出す場所へと変貌していくでしょう。それは、どんな場所・どんな人にとっても、より豊かで意味のある時間を届ける、新たな可能性を秘めています。
映像や空間演出を手掛けるプロデューサー兼ディレクター。
ProAV Picksでは各種展示会や製品情報のレポートを中心に紹介。