【韓国 現地レポート】DIGIBASEが創る、マルチエージェントAIを活用した次世代の映像インフラ

【韓国 現地レポート】DIGIBASEが創る、マルチエージェントAIを活用した次世代の映像インフラ

今回は、韓国・ソウルに拠点を構え、メディア領域のインフラとサービスで革新を続ける「DIGIBASE(デジベース)」社を現地取材してきました! 日本にも直結する最新技術の最前線を、余すところなくお届けします。


DIGIBASEオフィス

DIGIBASEオフィス カフェスペース

DIGIBASEオフィスに入ってすぐにあるカフェスペース

DIGIBASEとは? 映像ビジネスを支える韓国トップランナー

DIGIBASE社は、今年で設立26年目を迎えるメディアサービスのスペシャリスト・パートナー企業です 。韓国国内で実に120以上の顧客企業を抱えており、クラウド業界の巨人であるAWS(Amazon Web Services)のアドバンスドティアパートナーとしても最上位の規模を誇ります 。メディア業界における「AWSパートナー賞」の受賞歴も持つなど、その技術力は業界内で高く評価されています 。

AWS Summit Seoul 2023の様子

AWS Summit Seoul 2023の様子

同社は、コンサルティングやクラウドサービス、ソフトウェア開発にとどまらず、MLB開幕戦やUFC、KBO(韓国プロ野球)、そして熱狂的なファンを持つK-POPの大型ライブイベントの中継支援まで、極めて幅広い事業を展開しています 。
今回の取材では、同社を牽引する強力なリーダー陣から直接お話を伺うことができました。

Sunghwa Bang 氏(Director / PM)


23年の経験を持つシニアプロジェクトマネージャー(PM)。KADDでの勤務を経て2006年からDIGIBASEに在籍し、数々の大規模プロジェクトを指揮してきました。

Sunghwa Bang 氏(Director / PM)


23年の経験を持つシニアプロジェクトマネージャー(PM)。KADDでの勤務を経て2006年からDIGIBASEに在籍し、数々の大規模プロジェクトを指揮してきました。

直近では、ロッテホームショッピングの「メディアサービスクラウド移行」プロジェクト(2025年)、韓国の公営放送KBSの「KBS World & Korea チャンネル伝送クラウド移行」プロジェクト(2025年)、さらにはSKブロードバンドの「Btv インフラ統合監視ソリューション開発」(2024年)など、韓国を代表するメディア企業の根幹を支える大役を担うエンジニアです。

Max (Myongjin) Lee 氏(Director / AIソリューションプランナー)

AIおよびメディアサービスの戦略立案と企画を統括するスペシャリスト。2011年に韓国の代表的OTTサービスであるPOOQ(現在のWavve)のサービスとインフラ設計を担当しました。


Max (Myongjin) Lee 氏(Director / AIソリューションプランナー)(Director / PM)


23年の経験を持つシニアプロジェクトマネージャー(PM)。KADDでの勤務を経て2006年からDIGIBASEに在籍し、数々の大規模プロジェクトを指揮してきました。

2019年から2024年までは、韓国の主要放送局MBCのデジタルサービス運用責任者を務めています 。特筆すべきは、2023年にMBCニュースのYouTubeチャンネルで「YouTube ニュースカテゴリー」においてグローバルNo.1のランキングを達成し 、100億ウォンものYouTube収益を牽引したという圧倒的な実績です 。Google Koreaからのアワード受賞歴も持つ、デジタルメディア戦略のトップランナーです。

AIが変革する映像分析:マルチエージェントが創る次世代の運用

インタビューの様子

まずお二人からご紹介いただいたのは、メディア業界の常識を覆す「AIベースのコンテンツ分析ソリューション」です 。

現在、多くの放送局やメディア企業は、過去の膨大なアーカイブ映像を保有していますが、「どのシーンに、誰が、何が映っているのか」を正確に把握できていません 。手作業でのデータ入力には限界があり、近年需要が爆発しているTikTokやYouTubeのショート動画(Shorts)を作る際にも、既存のメタデータはあまり役に立たないのが実情です 。

そこでDIGIBASEが開発したのが、「マルチAIエージェント」という高度な仕組みを採用したAIソリューションです。チームリーダーの役割を果たすオーケストレーターAIからの指示を受け、ビデオ担当、オーディオ担当といった専門エージェントAIが連携し、フィードバックを繰り返しながら映像を深く分析します 。

マルチAIエージェントの説明スライド

マルチAIエージェントの説明スライド

このソリューションの凄いところは、単に「車」や「人」を物体として認識するだけではない点です。映像の文脈を読み取り、出演者の「感情」や、風景が醸し出す「雰囲気」までも分析し、自動的にタグ付けを行います 。AIが勝手に無関係なデータを作り出す(ハルシネーション)ことを極度なまでに制限しており、実務で使える意味のあるデータだけを抽出するよう厳密に設計されています 。

これによる現場での導入効果は劇的です。例えば、イギリスのプレミアリーグ(EPL)のサッカー中継では、時差があるため深夜に20名ものスタッフがハイライト動画の制作に追われていましたが、このAIの支援を導入することで、作業スタッフをわずか5名にまで削減するプロジェクトが進んでいます 。
また、試合終了と同時に「5分ハイライト」「10分ハイライト」「特定の選手ごとのハイライト」など、膨大な種類の動画を瞬時に自動生成する目的で活用されています 。

デモンストレーションで、AIが次々にハイライトを作成する様子

デモンストレーションで、AIが次々にハイライトを作成する様子

さらに、専門用語が飛び交う「eスポーツ」の配信においても、AIがマイナーなゲーム特有の用語をしっかり理解するため、担当編集者が交代しても常に一定のハイクオリティな動画編集を維持できるという、属人化を防ぐ強力なメリットも生み出しています 。

💡メタデータ:

「動画の〇分〇秒に〇〇選手が笑顔でゴールを決めた」といった、映像を検索・管理するためのタグ情報。

💡マルチエージェント:

単一の万能AIに頼るのではなく、複数の専門特化したAIモデルがチームのように連携して複雑なタスクをこなすシステム。これにより、圧倒的に高い精度の分析が可能になります。

Thomas Kramer氏がドイツからのリモート参戦!

熱を帯びたミーティングが中盤に差し掛かった頃、DIGIBASEの映像処理技術の心臓部を担うキーマンであるThomas Kramer 氏が、ドイツのケルンからリモート参加してくれました。

Thomas Kramer氏がドイツからのリモート参戦

Thomas Kramer 氏(Director / AIソリューション開発総括)

AIおよび機械学習ベースのメディアサービスプラットフォーム開発を牽引するシニアソフトウェア開発者。
映像処理コーデックの世界的企業である「MainConcept社」に2005年から20年間にわたり勤務し 、2025年からDIGIBASEへ参画しました。彼は、Netflixが主導する画質評価指標「VMAF」のオープンソース開発において、マルチスレッディングやパフォーマンス改善のコードを自ら書き上げ、多大な貢献を果たした人物です 。その功績により、Netflixのビデオ技術イベントで「Special Thanks(特別な感謝)」を贈られるという、まさに映像エンコード業界のレジェンド的存在です 。

究極の画質指標「VMAF」と、現場を救うトランスコーダー

Thomas Kramer氏の解説

Thomas Kramer氏の解説により、DIGIBASEが提供する映像配信のコア技術がさらに深く明らかになりました。

人間の目に寄り添う画質指標

「VMAF」従来の画質評価は、元の映像と圧縮後(エンコード後)の映像の「数学的な差異」を比較するだけのものでした 。しかし、人間の目は、速い動きと遅い動きで注意を向ける場所が異なります 。そこでNetflixが、暗い部屋に多くの人を集め、実際に様々な映像を見せて「どちらが綺麗に見えるか」という人間の視覚的知覚を徹底的にテストし、AIモデル化して生み出したのが「VMAF(Video Multi-Method Assessment Fusion)」です 。

DIGIBASEは、このVMAFと機械学習(ML)を高度に組み合わせた画期的なソリューションを、SKブロードバンドなどの韓国大手IPTV企業に提供しています 。映像を変換(トランスコーディング)する前に、AIがソース映像の特徴を分析し、「VMAFスコア95」という目標品質を達成するための最適なパラメータやビットレートを事前に自動予測します 。これにより、視聴者にとっての「最高画質」を一切損なうことなく、データ通信量(ビットレート)を劇的に削減することに成功しているのです 。

「VMAF(Video Multi-Method Assessment Fusion)」

現場の課題を解決する「完全互換」トランスコーダー

さらに、放送業界の大きな悩みの種を解決するソリューションも紹介されました。 現在、韓国を始め世界中の多くの放送局で、AWS Elementalのオンプレミス用ハードウェアエンコーダーが使用されています 。しかし、この機器は販売終了となり、メーカーはクラウドへの完全移行を推奨しています 。とはいえ、膨大なコンテンツを抱え、一足飛びにクラウドへ移行できない企業が数多く存在しているのが現実です 。さらに、既存のハードウェアとクラウドでは操作用のAPIが異なるため、簡単に置き換えることができません 。

💡AWS Elemental:

アマゾンウェブサービス(AWS)が提供する、放送局品質の映像処理・配信用サービス群。DIGIBASEは韓国国内の総代理店として、クラウド移行やアプライアンス(専用機器)の導入支援を行っています。

そこでDIGIBASEは、ハードウェアのVPUを活用した超高速な独自トランスコーダーを開発。このシステムは、販売終了となった「AWS Elementalサーバー」のAPI(XML構造)を完全に模倣した互換性を持っています 。これにより、顧客は既存のワークフローやシステムを一切変更することなく、古い機材を抜いて新しい機材を差し込むだけで、シームレスに次世代の映像処理環境へ移行できるのです 。現場の苦悩に寄り添った、まさにプロフェッショナルな設計思想と言えます。

💡トランスコーディング:

元の動画データを、スマートフォンや大画面モニターなど、視聴環境に合わせて別の形式やデータサイズに圧縮・変換する技術。

💡API(Application Programming Interface):

ソフトウェア同士を繋ぐためのルールや窓口。DIGIBASEは既存システムと同じ「窓口」を用意することで、移行のハードルを極限まで下げました。

日本の映像サービスにもたらす価値

DIGIBASEオフィスからの眺め

DIGIBASEオフィスからの眺め。
ソウルを南北に流れる川「漢江(ハンガン)」を挟んで、微かにソウルタワーが見える。

今回DIGIBASE社から紹介されたテクノロジーは、決して韓国国内だけにとどまるものではありません。日本の放送局、OTT(動画配信プラットフォーム)事業者、スポーツ中継、そしてプロAV業界全体が抱える慢性的な課題を解決する、巨大なポテンシャルを秘めています。

眠れるアーカイブ資産の収益化と業務効率化

日本の放送局もまた、過去数十年にわたる膨大なアーカイブ映像の扱いに頭を悩ませています。DIGIBASEの「マルチエージェントAI」を活用すれば、人海戦術に頼ることなく、過去の資産からSNS向けのショート動画や特定のハイライト映像を爆発的なスピードで生成することが可能になります。

クラウド移行の「壁」を乗り越える救済策

映像処理インフラのクラウド化が急務とされる一方で、セキュリティやコスト、既存システムとの兼ね合いから、完全移行に踏み切れない日本の企業は少なくありません。AWS ElementalのAPIと完全互換を持つDIGIBASEのVPUトランスコーダーは、既存のワークフローを維持しながら最新のエンコード環境を手に入れられる、業界の「救済策」として機能するでしょう。

VMAF最適化がもたらす配信コストの削減

高画質化が進むにつれ、映像配信にかかる帯域コストは増加の一途を辿っています。VMAFと機械学習を活用したインテリジェントなエンコード予測は、視聴者に「最も美しく見える映像」を届けつつ、事業者のインフラコストを劇的に最適化します。

AIによるインテリジェントなコンテンツ理解と、VMAFによる究極の映像最適化、そして現場の課題に寄り添うハードウェアソリューション。DIGIBASE社が切り拓く強固なメディアインフラは、日本の映像ビジネスを次なる次元へと引き上げる大きな鍵となるに違いありません。

この記事のWRITER

映像や空間演出を手掛けるプロデューサー兼ディレクター。
ProAV Picksでは各種展示会や製品情報のレポートを中心に紹介。

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